MTは広場から他のエルフを追い出すと、語った。
「ダークマールという魔術師を知っていますね？」うなずくギャロウェイ。
「彼は【異界の門】を開き、反王に加担しようとしています。それ自体は人間
同士の争いなのですから、私たちには関係がありません。が、DEとは言っても
エルフ同士が争うことがあってはなりません。開いてしまった【門】を
再び閉じることはできませんが、彼が別の【門】を開いてしまうことがない
ようにするのは、ギャロウェイ、あなたの仕事です」

　ギャロウェイはフェアリープリンセスに案内されて、森の奥へ分け入った。

　道々フェアリープリンセスが語るには、生命の樹の一本が、【異界の門】に
なってしまったということだ。しかもダークマールの部屋以外の、意思を奪わ
れたDEの群れに飛び込むことも多い、という。

　ギャロウェイはある限りの防御魔法を自分にかけ、生命の樹に溶け込んで
行った。
　瞬間、無数の矢が飛んできた。虚ろな眼をしたDEの大群が射掛けてくる。
ギャロウェイは、ほとんど瀕死でMTに飛び戻った。その繰り返しを飽きること
なく繰り返したとき、ギャロウェイは矢ではない攻撃を受けているのに
気がついた。
「そいつは四界の精霊だ。俺が見つけ出したんだ」
そこには無数の精霊を従えたダークマールが立っていた。

精霊の攻撃は強烈で、ギャロウェイの攻撃でほとんどダメージを受けていない
ように思える。ダークマールは勝ち誇って言った。
「お師匠様の仇（かたき）だ。お前の姉は『沈黙の洞窟』の長にくれてやった。
赤ん坊は並行世界に捨てた。お前もここで死ぬのだ！」

　ギャロウェイの脳裏にあの日の出来事が甦（よみがえ）った。

自分の姉が人間のナイトとの間に生んだ男の子を、森の外れまで送っていった
日のことを。パーン＝エンバーグというナイトが赤ん坊を受け取ってケント城下に
向かい、姉と二人でMTに戻る途中、デュペルゲノンとダークマールに襲われた
のだ。
　ギャロウェイは必死で抵抗したが、若すぎるエルフに老練の魔術師２人は
手に負えなかった。身動きできないギャロウェイに、デュペルゲノンの短剣が
近づいたとき、ダークマールが言った。
「お師匠様、わたくし、ギアスの魔法をまだ実地に試してみたことがないの
です」
「ほぉ、お主、そこまで上達していたのか・・。よし、この若造に掛けてみる
のも面白いｗ」
「お許しいただき、光栄です・・ダークマールの名において、この男エルフに
【制約】を与える。今日のことを他人に伝えようとするとき、汝の身体は
汝の心を伝えるために、その生命力を食い散らすであろう！」
ギャロウェイの身体が薄青く光った。

「まだ甘いな、ダークマール。こうするのだ・・デュペルゲノンの名において
この男エルフに【制約】を与える。次に目覚めた後、それまでのことを記憶に
登らせようとすれば、汝の身体は引き裂かれ、裏返るであろう！」
ギャロウェイの身体が深紅に染まった。

「なるほど『裏切り』と『裏返り』、ですか（笑）」
「こういう魔法は、リムーブギアスの際に思い出しやすいキーワードが必要
なのだよ（笑）」

　ギャロウェイの感覚から痛みも苦しみの消えた。怒りが全身を燃え上がらせた。
襲い来る精霊たちの隙間から、ダークマールに矢を放つ。ダークマールの電撃に
装備が焼け焦げる。痺れが全身を覆っていく。それでも揺れる視界の中で、
ギャロウェイは弓を引き続けた。
　一本の矢がダークマールを後ろの岩に縫い付けた！続いて２本、３本・・。
ダークマールが動かなくなったのと、ギャロウェイが最後のMPを使ってMTに
飛んだのは同時だった。

「・・起きなさい、ギャロウェイ」MTの声がする。
「あなたは、成すべきことを果たしたようですね。」
「・・はい、MT」
「残念ながらあなたの姉は、エルフとしての名前を剥奪しなければなりません。
あの娘のせいではないにせよ、【異界の門】を開く穢（けが）れを負ってしまった
からです。いつの日か【門】を閉ざすことができる時、その名前をもって封印としな
ければならないからです。」
「・・はい、MT」
「あなたは自分の名前を取り戻した、と認めましょう・・あなたの名前は？」
「私の名前は・・」瞬時、ためらいながら答えた。
「私は、これからも・・ギャロウェイ、です(^^」

--　完　--

「・・・聞いちゃったね、じょあん」叢（くさむら）の陰からりぇんが囁く。
「どうする？ファルクに教える？お母さんのこと・・」
大きな眼にいっぱいの涙を溜めながら、それでもじょあんは笑ってみせる。
「ふぁる、悩むキャラやからなぁ・・。面白いから、教えちゃおうか（笑）」